浜松所属の24期。日本最速男と言われる伊藤選手。SGタイトルはもちろん、優勝回数を87回まで伸ばし今でも第一線で走り続ける選手です。そして、今年は通算勝利数1000勝達成、13年ぶりのSG制覇とファンを沸かせてきました。今回は、1000勝達成、SG優勝、年末のスーパースターへの気持ち、弟子への想いなどをお話しして頂きました。(取材日:2020年12月6日)
インタビュー / AKI
AKI:2020年は、通算1000勝達成、SG制覇と素晴らしい1年になりましたね!
伊藤:まだ今年終わってないけど色々あった年ですね。今年の初めはこんな事になるなんて思ってもいませんでした。良い方向に行きました。
AKI:まず1000勝に関して、振り返っていかがですか?
伊藤:1000勝に関しては、ある程度のところまでというか、今年達成するというところまで来ていたのでいつか取れるだろうなという感じでした。
ただ、あと1勝がなかなか決めれなくて。
周りにカウントされて、今考えたら堅くなっていました。そして、川口で1000勝決めて。1000決めた後はテンポよく1着を重ねていけました。
AKI:1000勝決めてホッとされた部分もあったんじゃないですか?
伊藤:そうですね。ただ、まさかその後にSG優勝があるなんて思ってもいませんでした。SGがなかったら1000勝の年になっていたんでしょうけど、完全にSGに上書きされましたね(笑)。
車の状態は今年ずっと良くて、優勝もしていたし競争タイムも出ていた。今年は動きがいいなとは思っていましたけど。まさか!でしたね。
AKI:今年初めに行ったオッズパークのインタビューを見てみると「最近はSGの優出自体がないからSGの優勝戦を目指したい」というようなコメントがありました。
伊藤:それは正直な気持ちでしたね。ここ2年くらいはSGの優勝戦には乗れていませんでした。なので、それを目標にしていたら今年のグランプリで優勝戦に乗れて。
「あ、乗れた!」と思いましたね。やっぱり年齢を重ねてくると「もう乗れないのかな〜」なんて考えちゃうじゃないですか。
けど、今年は乗れたな思って。それと同時に「スーパースターに出たい!」と思いました。例年を考えると優勝戦は5着には入らないと厳しいだろうなということを頭に置いて、優勝戦のスタート直前はそんな心理状態でしたね。
AKI:SG獲るぞ!!という感覚ではなかったんですね。
伊藤:そうですね。もちろん5着でいいなんて思ってはいないですよ。
けど、「まずは自分のできる走りに集中しよう」と。「最近切れているスタートをしっかり切って、自分の走りをして、それがどのレベルなのかな?」という感じでした。
そしたら優勝戦、早々と先頭に立っちゃって(笑)あれ!?って感じでした。
「先頭走ってるな〜」って。3周くらい走って「これだったら流石にSS圏内の5着までは下がらないかな」と思ってたら後ろから音が聞こえてきて。
「やっぱ誰か来るよね〜」と思ったら有吉くん(飯塚25期:有吉辰也選手)で。けど入り方がキツイ角度だったので「あ、もう一回行けるかもしれない」という感じですぐ抜き返しました。そしてまた最初の心理状態です。あれ!?って(笑)。
AKI:どの辺りで"優勝"を意識したんですか?
伊藤:残り2周くらいで気配というか、後ろの音が聞こえなくなったんです。そこで「あるかも」と思いました。
AKI:伊勢崎はビジョンが見れますが、レース中は見たりしたんですか?
正直、ビジョンは見たかったです。大きいビジョンだし見れば位置関係が分かる。けど、見ませんでした。
なんとなく、ビジョンを見て良いことないというか、甘えそうな気がして。なので、優勝戦は1回も見てないです。
AKI:SGの優勝戦は10周回と長いと思います。先頭に立っている時間も長かったと思うんですが感覚的にはどうでしたか?
伊藤:やっぱり長いですよ。けど、1つ1つ集中ですからね。ナイターといっても夏場だったのでちょっと気をぬくと滑っちゃう。
なので、1つ1つのコーナー、1周1周集中していました。毎回同じではないので。「今のコーナー上手くいったな。」とか考えながら走っていました。
AKI:13年ぶりのSG制覇でしたが、ゴールの瞬間はどんな感情だったんですか?
伊藤:SG取れちゃった!という感じですね。
AKI:実感はすぐ湧きましたか?
伊藤:それが、湧かなくて。ゴールした瞬間ってお客さんの「わー!!」という歓声があったり、花火が上がったりするもんじゃないですか。
それが、無観客でそういうのがなく。ガッツポーズしようにもお客さんの反応もないし。さらに、ゴール後いつもだったらロッカーに戻って仲間が出迎えてくれて囲まれるんですが、その時はコロナ対策でお出迎えも控える様になっていて。そして、表彰式もカメラの前で。なんか、全てが練習というか、リハーサルをやっている様な。
なので「取ったのかな?」というような不思議な感じでしたね。そういうこともあって実感はしづらかったですね。
AKI:そうですよね。今回はかなり特殊な感じでしたよね。
伊藤:以前、浜野(山陽24期:浜野淳選手)が伊勢崎でグランプリを取った時に、浜野の背中越しに上がる花火を観ていて。「あぁ〜いいな」なんて思っていたんですよ。それを覚えていて。
で、自分が優勝した時にロッカーに戻ってきて「あれ?花火上がったっけ?」って。覚えてないだけかなって思ったら無観客で花火は上がっていませんでした(笑)。
AKI:それは悲しいですね(笑)。
伊藤:けど、この前の伊勢崎の平開催で優勝した時にはウイニングラン出来ました。嬉しかったですね。「あ、これSGの時出来なかったな。やっぱりお客さんがいると感じ方が違うな」と思っていました。次は僕も花火を体験したいです(笑)。
AKI:これで年末のSSが確定しました。SSは7年ぶりです。
伊藤:SSも変らず、やる事をやっていくだけかなと思います。今年も、すごく良い時と悪い時の振れ幅はあるんですけど、良い時はSGも取れるということが証明できた。
なので、特別なことはせず今まで通りのスタイルでいきたいと思っています。手を動かし続けることですね。それをやって成績が良くなったので。
AKI:元々はそこまでエンジンに手を加えるタイプではなかったんですか?
伊藤:やっていたんですけど、やってるつもりだったというか、「もうちょっとやれるんじゃない?」と思うようになって。そう思うようになってから成績が良くなりましたね。
AKI:気持ちの変化があり、2年でSGの優出、優勝まで果たしました。すぐに結果が出たんですね!
伊藤:そうですね。今までが甘かったんでしょうね。努力してると思っていたけど、その努力や考え方を見直して結果が出たということはやる余地があったということ。年齢のせいにしちゃダメですね。
AKI:年齢の部分は理由にしていたなと思いますか?
伊藤:あるのかもしれないですね。優勝回数が減ったり結果がついてきていないのも余計に。成績が良くないのも年齢のせいだなと思っていた自分もいたと思います。
今年は5回優勝してますけど、去年の9月に優勝するまで平場でもいっとき優勝していないんです。それだけ遠のくとグレード優勝なんて見えてこないじゃないですか。なので、その当時は遠く見えていましたね、上のクラスが。
AKI:けど、また上のクラスに戻ってきました。
伊藤:はい。年齢による下降もあるんでしょうけどまだ補えるかなと思いました。
AKI:7年ぶりのSS舞台となりますが、伊藤選手にとってSSってどんな場所ですか?
伊藤:特別ですよね。ポイントがないと走れない舞台だし、さっきはSG優勝戦5着なんて言いましたが、今年は5着では乗れてないハードルの高い大会。
今年出られても次いつ出られるかわからない。なので、やり尽くしたいですね。後悔なく。ただ、年齢のせいにはしたくないんですが、だからといってがむしゃらに動ける体力ではない。そう思うと劣化は感じますね。
なので、休ませるところは休ませて。しっかり自分をもって挑まないともたないなと言うのはあります。そのバランスを考えながらやり尽くしていきたいです。
AKI:久々のSS舞台。楽しみな部分もありますか?
伊藤:エンジンがあってくれれば、ですね。今年の秋口くらいはエンジンがすごく動くという感じではなかったんですが、11月の末に伊勢崎で優勝した時は良い勝ち方で。
「納得」というところまでいけました。あの時の状態まで持っていければ"SSの舞台でも戦える"と思いましたし、今乗ってる車の中にもその状態があることが分かって、優勝戦にも持っていくことができたので方向は間違ってないのかなって。納得いく状態に持っていきたいですね。
AKI:十分戦える力を今のエンジンは持っているということですね。
伊藤:そうですね。ただ、これまでのレースとSSのレースは戦い方が違って、取りこぼせないじゃないですか。3日目から仕上がっても初日、2日目でダメだと挽回が効かない。だんだんと合わせていくだと手遅れな事もありますよね。なので、それまでにやるべきことはやって。
AKI:SSへの意気込みをお願いします。
伊藤:自分の全てを出し切って!!
AKI:目標は掲げるタイプですか?
伊藤:目標は決めないタイプですね。その時その時です。一つ一つのレースでしっかりとエンジン出して結果を出さないと、大きな舞台でも結果は出せないんじゃないのかなと自分には厳しく思っています。
この考えは若い時の方が強かったですね。昔は優勝以外は自分をものすごく否定したりしていました。けど、その考えは結局長くは持たないじゃないですか。それに気づいてからは、さっき言ったようにやるべき事をやって、その結果は認めて反省する。そういう風にやってきました。
AKI:今年はエンジンがずっと良いということですが、いつぐらいからエンジンは良くなっているんですか?
伊藤:去年の11月くらいからですね。クランクを去年の11月の少し前に替えて、色々扱ってから11月くらいに良くなりました。去年交換したクランクは今も使っているものです。ヘッドとか小さなパーツは替えていますが、心臓部分のクランクは変わっていません。
AKI:そのクランクは新品だったんですか?
伊藤:いや、以前使っていた物ですね。なので、昔そのクランクを下ろした時はなんて見る目がなかったんだと思いました(笑)。車が悪いのはクランクじゃないよ、と当時の自分に教えてあげたいです(笑)。
AKI:けど、そのクランクで良い1年を過ごせたんですね!
伊藤:そうですね。このご時世で"良い1年間"ってなかなか使いにくいですが成績としてはものすごく良いです。
AKI:先日、弟子の花田選手(浜松33期:花田一輝選手)も優勝して師弟共に良い流れが来てますね!
伊藤:そうですね!勝ちましたね!地元じゃなくよそで勝ってくるってなかなか凄いことですよ。自分も飯塚の新走路を走って違うなって思う中、弟子は自分で感じたことをアレンジして整えて優勝したっていうのは凄いなと思いますね。
あと課題はスタートですよね。この前の優勝戦も、「スタートさえ行けば絶対的」と思っていたはずなんです。お客さんの不安もスタートだったと思うんです。たまたま優勝戦は展開が向いてラッキーな部分もありました。けど、しっかり結果を出してくれて良かったです。
AKI:お弟子さんを取ってからなにか変化はありましたか?
伊藤:全部1から見ますよね。もちろん今までも後輩を見てきましたけど、何もない状態から自分が掴んでるものを人に伝えるっていうのは、しっかり自分を分析して言葉にしないといけない。
なので、自分も初心に戻れました。どうしたら伝わるかなって。そういうのもあって弟子を取ると師匠が強くなるっていうのがあるんじゃないですかね。
AKI:花田選手の走りはいかがですか?
伊藤:1級車に乗り出した頃は良かったんですけど、ここ1年間くらいはあまり良くなくって。あ〜壁にぶつかってるなっとは感じていました。けど、この前優勝して挽回できたのは良かったですね。
やっぱり勝たないと自分自身が揺らぐんですよ。なので、これで良い方向に行けるんじゃないかなと、また頑張れるんじゃないかなと思いました。そして、やること、スタートを良くするという課題は見えている。捌きももちろんやらないとですが、まずやることは明確です。早急に、といってもすぐできることではないんですけどね。
自分も26年乗って雨は苦手ですし。けど、自分なりに努力はしていて、いっときの雨よりは点数取れて予選通過とかもあるんですよ。
それこそ、グランプリは雨で4、5着で何とか通過出来たんですよ。インコースの練習をして、すぐに1着とはいかなくてもなんとか着を拾って予選通過できればと思ってやっていました。
AKI:その練習の積み重ねが、あのSG優勝に繋がったんですね。
伊藤:そうですね。もう今はインの練習をしないとダメですね。外が食いつけばって言ったところで無いものを追うだけになるんで。
無いのに頑張ってるってなんか違うなって。なのでインコースの練習をやるしかないと思っています。一つ一つをずっとやっていくことが大切です。
AKI:選手人生の中でもう嫌だ!って思ったことはなかったんですか?
伊藤:んーあったんでしょうけど忘れちゃいましたね(笑)。ある程度続けていくと戻れないですからね、背負うものがいっぱいありすぎて。ここしかないですし、やるしかないです。
AKI:走り続けて26年。この年数はどう感じますか?
伊藤:長いですね。自分がデビューしたとき弟子はまだ生まれてないですから(笑)。自分がデビューした時もそうやってお前まだ生まれてなかったよって言われてたんですけど、今じゃ自分がそうなってるんだなって。
AKI:そんな大先輩で師匠が第一線で活躍してるって凄いことですよね。それに、花田選手は元々オートレースが大好きですよね。
伊藤:そうですね。昔のレースもよく知ってますよ。なので、レース展開も知ってます。できるできない別にして、こういう時はこう行くとか、そういうイメージは湧いてると思います。
そういう点は全くレースを知らないよりは強みになるんじゃないですかね。それに、彼は仲間内にしっかりと溶け込んでますよ。最初は年齢差もあるし周りは心配することもあったと思いますが、そこは彼自身が溶け込んでると思います。なんの心配もしてないです。
別のグループでも可愛がってもらったり、声かけてもらったりとそこは上手く出来てるし心配ありませんね。
AKI:可愛いお弟子さんということですね。
伊藤:そうですね。後は、SGの舞台。前回の優勝のような走りをすればSGも見えてくると思います。SGの舞台にきて欲しいですよね。
どうせなら一緒にSGを回りたいですよ。早くこないと自分がいなくなっちゃうから(笑)。
AKI:ちょっと!(笑)まだ待って下さい!! (笑)
伊藤:(笑)なので、早くSGの舞台に来て欲しいですね。スピードはある方なので、スタートさえ切って勢いに乗れれば。夏は夏で苦しむと思うけど、そこは向き合って。
夏はグリップを開けるだけの走り方じゃダメで、タイヤを使わないようにとかテクニックが必要です。大きなコースを走るスタイルはキツイです。けど、開けっぷりが良いというのは大きなタイトルに繋がります。
AKI:今後も師弟での活躍を期待しています!それでは最後にオッズパーク会員の皆様にメッセージをお願いします。
伊藤:50歳まであと少しですけど、同年代の方の希望の星になれるように頑張ります!!これからも応援をお願いします。
福岡県宗像市出身のタレント。福岡でテレビ番組やイベントMCなどで活躍中。飯塚オート3代目「勝利の女神」。飯塚オートでは、AKIのAKIらめない予想やバスツアーなどを開催。川口オート、伊勢崎オート、浜松オート、山陽オートでもイベント出演中。