鈴木 祐 騎手(岩手)
2020年07月01日
鈴木祐騎手は2016年デビューで今年5シーズン目に入った。3歳クラシック路線ではグランコージーの、古馬戦線ではランガディアの手綱をとってビッグタイトルを次々と手にしている。デビューから5シーズン目前後の若手騎手がみちのく大賞典を制したのは30年ぶりくらいの快挙でもあった。今回はそのパートナーたちの話を中心にうかがった。
ではまずグランコージーの話から聞かせてください。鈴木祐騎手がずっと手綱を取っているということで(南関東所属時を除く)最初からお話を聞きたいんですが、2歳時の頃のグランコージーはどんな印象の馬でしたか。
デビューする頃はまだ体ができていなかったですし、走る"気"をあまり感じさせない馬だという印象でしたね。
自分も見ていましたが、デビュー戦は逃げ切って勝ったんだけども、2歳馬っぽい、気持ちで一気に逃げ切る感じではなくて、なんというか淡々と走りきって勝った様な印象でした。
ふわっとした感じの走りでしたね。正直その頃は、ひとまずデビュー戦に向けて仕上げていこうという調整。最初のレースは、差のないメンバーになったから"まずは良い競馬が出来たらいい"と思った記憶があります。
グランコージーのデビュー戦は6馬身差の圧勝(2019年6月2日)
それが新馬勝ちして2歳の重賞も勝ってどんどん力をつけて、今や周りからもあの馬は強いなぁと言われるくらいになりました。そんなグランコージーが去年と今年、2歳時と3歳時でどんなところが成長したと感じますか?
やはり馬体ですね。身体がすごく大きくなっていましたね、去年と比べて。南関東に行って帰ってきてから見たらいい身体つきになったなと感心しました。身体がひと回り大きくなって、がっしりして帰ってきました。
自分も去年の写真と見比べてずいぶん変わったなと思いました。肉付きが良くなったし幅も増した。南関東に行った効果はありましたね。
そうですね。南関東で揉まれてきた事で終いの粘りも一段と良くなってると感じました。
ダイヤモンドカップ優勝(2020年5月3日)
さて、東北優駿から2日経ちましたが、振り返って、"あの時はこうしたら、こう乗ったら......"みたいなのが浮かんでくるんじゃない?
そうですね......。今回のレースはマークが厳しかったですね。控える競馬も試してみるべきだったのかな......と自分では思っています。
東北優駿の1周目(グランコージーは8番)。息の抜けない流れになって4着に終わった
と言うと、他の馬に行かせてしまって、いっそ3番手ぐらいになってもいいか、みたいな?
なんなら砂をかぶるくらいの位置でも良かったかなって。南関東ではそういう競馬をしていますし(クラウンカップは後方から追い込んで6着)。レース前半の速めのペースからそのまま全体に息が抜けない流れになってしまって、向正面で少し息を入れようとしたら、すぐ後ろにもうピアノマンが来ていたじゃないですか。それで余計に息が入らなくなって。結果論ですけれど、周りから目標にされていることをもっと考慮すればよかったと。
他の馬の思惑もあるからなかなか思い通りにならないですよね。その、向正面あたり、もう少しだけ楽ができたら、息が入ったら、展開や結果も変わっていたんじゃないのかなと思ったりもしました。
なので最初から"差す競馬のイメージ"で乗っていた方が良かったのかもしれないですね。
その辺、他の馬の動きの捌き方も含めて、これからの、秋の課題になっていくのかな。
今年岩手1戦目(ダイヤモンドカップ)を大差(9馬身差)で勝ったことで東北優駿では余計に厳しくマークされたとも思います。そういうのをできるだけ受け流すというか、やり過ごすような戦いをしていきたいですね。
距離も、実は2000メートルはもしかしたらグランコージーにはちょっと長いのかもしれないけども、3歳馬同士だったらあまり気にならないのかなと思うんだけど。東北優駿だって最後はたしかに止まったけど、厳しい展開ながらよく踏ん張っていた。むしろグランコージーの地力を感じさせてくれたレースだったのでは。
1600メートルまでの経験しかなかったので不安は確かにあったんですけども、それは他の馬も同じですし、グランコージーは十分やってくれると思っていたので距離はあまり気にしていなかったです。先行した馬の中では最後まで頑張ってくれていましたし、力がある馬なのは間違いないと改めて思いました。
次の三冠目が同じ盛岡2000メートルの不来方賞。秋は頑張ってください。
はい。がんばります。
次にランガディアのお話を聞かせてほしいと思います。ランガディア、どういう強さを持った馬なのでしょう?
そうですね、どこからでも競馬できるし折り合いも付きやすい。乗りやすくてレースもしやすい、本当に良い馬だと思いますね。JRA時代は芝ばかり走っていた馬ですから砂を被った時にどうなのかな?と思っていたのすが、砂を被っても嫌がらなかった。ダートも全く問題ない馬ですね。
地方競馬の深い砂がどうなのかなと思ったんだけども、むしろ合うぐらいな感じ?
パワータイプの走りをするので地方の砂もちょうど良いくらいかなと思います。
あの馬で重賞を2つ勝ったんですけど(インタビュー時はみちのく大賞典の前)、そのおかげと言うか、今シーズンは鈴木祐騎手もいい感じでスタートできたんじゃないですか?
ランガディアといいグランコージーといい凄く走る馬ばかり乗せてもらって、自分の経験にもなります。それがこれから良い方向になって行ってくれれば良いですね。
やっぱりああいう"強い馬に乗って強いライバルと戦う"というのは乗っている騎手にとってもいい経験になるんじゃないのかなと思うけれど?
凄く良い経験になっていると思います。自分にとっても馬にとってもですね。本当に恵まれているなと。
ランガディアはレースぶりも良いものね。シアンモア記念の激闘なんか見事でした。
ファンの皆さんにも楽しんでいただけたレースになったんじゃないのかなと僕も思っています。
シアンモア記念ではエンパイアペガサス(右)との激闘を制した(2020年5月10日)
ああいうレースは、乗ってる方はやっぱり神経が擦り減る感じ?
もう本当にひやひやですよ。心臓がバクバクです(苦笑)。
それは強い馬を勝たせなきゃいけないっていうことで?
本命馬、人気の馬に乗っているというプレッシャーはありますね。絶対に失敗はできないという気持ちで乗っていますから。
シアンモア記念では返し馬で"赤松杯の時よりも元気がないのかな"と感じて、レース中も若干手応えが薄いかなっていう所があったのですが、自分の指示にしっかり反応してくれたし最後まで頑張ってくれた。すごく一生懸命走る馬。力がある馬なんだと改めて思いました。
今後距離が延びたり、あるいは短くなったり、はたまた芝になったりという可能性もあると思いますが、どういう走りができる馬だと思いますか?
あまり短い距離だと流れに乗り切れなくて厳しい競馬になるかもしれません。終いの脚を使ってくれる馬なのでマイルより短くなると持ち味が活きないかもしれないですね。長くなるのは問題ないと思います。良い競馬ができるんじゃないのかな。芝の実績もある馬なのでこれからどう変わっていくか自分も楽しみにしています。
一條記念みちのく大賞典も制しランガディアで重賞3連勝達成
さて話を変えて。鈴木祐騎手がデビューして今年で5シーズン目。もう新人・若手というよりは中堅という感じにもなってきたんだけども、最近の自分に"何か変わった感"のようなものはありますか?
ちょっとスランプ気味と言うか。今ちょっと壁にぶち当たってるような感覚ですね。それは勝ち星的にも、乗り方的にもですかね。どうやればもっと勝てるんだろう......って考えすぎちゃって、迷っている段階ですね......。
随分正直に言うね
いやそれだけ本気でそう思っているんですよ。
見ている分にはよく頑張ってると思っているんだけども。
まあ騎手にゴールはないですからね。常に研究ですから。チャンスがあれば他地区で乗ってみるとかそういう経験を積むのも有りかなと思っています。
一條記念みちのく大賞典は久しぶりに若手騎手の制覇になった
では最後に、ファンの皆さんに一言。
まだしばらくは無観客ですが、自分も頑張りますので応援してください。
あ、もうひとつだけ。ヤングジョッキーズシリーズは、やっぱり若い騎手にはあったほうがいいと思う?本戦まで進んだ先輩として(インタビュー時、今年のYJSの開催は未発表)。
それはあった方が良いと思いますね。かなりいい経験になると思います。ヤングジョッキーズシリーズに出るのはいろいろな経験ができて自分の経験値になってくれると思います。少々日程が厳しくなっても是非やってほしいと思いますね。
今年の鈴木祐騎手はシーズンの1/3を終えた時点で騎手リーディング8位前後に留まっており、その辺が「スランプ気味」と本人が言うことにもなっているのだろう。
とはいえシーズン前半の3歳戦線・古馬戦線のいずれもで有力馬とコンビを組み、大きなタイトルを次々獲得してきたその活躍ぶりは非常に印象深いのも確かでやはり"華"のある騎手だと改めて感じさせてくれた。今年が飛躍の一年になることを楽しみにしたい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視