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【コラム】新人騎手が勝率20%超の快進撃

 近年、地方競馬ではデビュー間もない新人騎手の活躍が全国的に目立っているが、昨年12 月にデビューして、いきなりトップジョッキーに匹敵するペースで勝ちまくっているのが、ばんえいの今井千尋騎手だ。
 
 ばんえい競馬では売上が落ち込んだ2010年以降、新人騎手のデビューが途絶える時期もあった。しかし近年では売上も右肩上がりとなって、2019年以降は21年を除いて毎年新人騎手がデビューし、昨年12月には3名の新人がデビューした。そのひとりが今井騎手。
 
 12月10日にデビューした今井騎手は、3戦目となった翌11日第9レースで初勝利。12日に2勝目を挙げると、19日には1日2勝、28日には1日3勝と勝ち星を重ね、そのデビュー月には43戦10勝という成績を残した。
 
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12月11日、初勝利を挙げた今井千尋騎手(写真:ばんえい十勝)
 
 その勢いは1月になっても衰えず、8日には1日4勝という記録も達成。この1月は、23日までに早くも16勝を挙げている。年が明けたばかりでリーディングというのもどうかと思うが、今井騎手は鈴木恵介騎手に2勝差をつけ、なんと2023年ばんえいリーディングのトップに立っている。
 
 すごいのが、その勝率・連対率だ。今年ここまで74戦16勝、2着12回で、勝率21.6%、連対率37.8%はいずれもダントツ。勝率で2位が鈴木騎手で16.1%、連対率で2位が西謙一騎手で26.7%(6戦0勝、2着2回で連対率33.3%の林康文騎手は除く)だから、いかに今井騎手の数字が抜けているかがわかる。
 
 冒頭でも触れたとおり、近年、地方競馬全体でデビューしたばかりの騎手の活躍が目立つが、もとは縦社会。かつて競馬の世界では、よほどの才能があるか、もしくはよほど何かに恵まれるでもない限り、デビューしたばかりの騎手が、トップジョッキーと同じように勝ちまくるということはほとんどなかった。
 
 たとえばここ数年、ばんえいリーディングを争っている鈴木恵介騎手、阿部武臣騎手なども、デビューして何年かは目立たない存在だった。
 
 ともにデビューは1998年(以下、勝利数はいずれも暦年でのもの)。そのデビュー年こそ減量の恩恵もあって、鈴木騎手28勝、阿部騎手35勝とそれなりの勝ち星を挙げたが、99年?06年までの年間勝利数を順に記すと、鈴木騎手が38,16,17,23,25,55,71,107、阿部騎手が18,3,5,11,10,14,25,35。
 
 鈴木騎手は年間10勝前後が続いて、はじめて100勝を超えてばんえいリーディングのトップ10に入ったのが9年目のこと。阿部騎手に至っては2年目以降、騎乗数自体が少なく、年間10勝前後という年が続いた。通算500勝到達は、鈴木騎手がデビューから10年、阿部騎手は14年もかかっている。
 
 それゆえ、2020年12月にデビューした金田利貴騎手が、21年にいきなり94勝を挙げたときは、ばんえい競馬も時代が変わったと思わせるものだった。そして今井騎手は、それ以上のペースで勝ち星を重ねている。
 
 果たして、今井騎手の勝率20%超という、ベテランのトップジョッキーのさらに上をいく快進撃はどこまで続くのだろうか。これにはデビューしたばかりのご祝儀的な騎乗依頼もあるだろうし、何より新人の10kg減に加え、女性騎手の10kg減という、計20kg減量の恩恵は大きい。平地の競馬では、新人の女性騎手は4kg減となるが、ばんえい競馬における20kg減は、平地の4kg以上に恩恵が大きいように感じる。加えて、この冬の異常なスピード馬場は、20kg減との相乗効果でさらに有利になっているかもしれない。
 
 ばんえい競馬では通算50勝で10kgの減量がなくなる。今井騎手はこのペースで勝っていくと、今シーズン中(3月まで)に減量がなくなるかもしれない(女性騎手の10kg減は残る)。さすがに10kgの減量がなくなれば今のようなペースで勝ち続けることは難しいかもしれないが、それでもリーディング上位の争いにからんでいけるのかどうか、注目したい。

斎藤修の重賞ピックアップ
NAR『ウェブハロン』、『優駿』、週刊『競馬ブック』、『競馬総合チャンネル』などで地方競馬を中心に記事を執筆。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』『地方競馬中継』解説。ドバイ・香港・シンガポール・アメリカなどの競馬にも足を運ぶ。1964年生まれ。
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