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【コラム】ばんえい十勝の苦難を支えたオッズパーク

ばんえい十勝の苦難を支えたオッズパーク
 
 4月24日、2020年度のばんえい競馬が無事に開幕した。ばんえいに限らず無観客ではあるものの、今は競馬が開催できること自体がありがたい。
 それにしてもその開幕初日の売上には驚いた。1日の売上5億9233万8900円、メイン第10レースの売上1億1935万7400円は、帯広単独開催後の、1日、1レースのいずれもレコードだった。
 メインのスプリングカップにはホクショウマサルを含めばんえい記念出走馬が5頭いたほか、昨年の3歳三冠馬メムロボブサップや、近走不振だが6歳世代最強と言われるメジロゴーリキなど、世代ごとのオールスターキャストが揃ったということもあったのかもしれない。1日の売上は従来のレコード(4億2725万円余り、2019年12月30日)を1億6千万円余りも上回った。
 
 2007年度から帯広単独開催となったばんえい競馬では、『ばんえい十勝オッズパーク杯』がシーズン最初に行われる重賞として定着している。
 なぜ"オッズパーク杯"なのか。帯広単独開催となってから13年も経過し、当時のことをあまりご存知でない方もいるのではないだろうか。
 
 当時は地方競馬でいくつも競馬場が廃止になっていた時代。それまで帯広、旭川、岩見沢、北見の4競馬場で開催されていたばんえい競馬も、2006年度の開催中に存廃が取りざたされるようになった。
 旭川競馬場では、その年の開催が6月12日に終了すると、間もなくばんえい用のコースの撤去が始まった。旭川市はこの時点で撤退を決めていたものと思われる。
 ばんえい競馬が廃止されたときに経済的に影響が多いのは、重種馬生産の中心、十勝・帯広だ。帯広市は、北見市もしくは岩見沢市と2市で開催を続ける道を探った。
 当初、岩見沢市との2市開催が実現しそうなところまでいったが、11月になって岩見沢市も撤退を表明。残す可能性は帯広市が単独で続けられるかどうかだった。
 新聞には「ばんえい競馬廃止へ」という見出しが出るようになった。
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(写真提供:小久保友香さん)
 
 どこかの競馬の廃止が検討され始めると、それが決定したわけでもないのに、地元新聞には決まって廃止へと誘導するかのような記事が掲載されるようになる。
 実際、その流れで廃止されてしまった競馬場もある。しかし廃止濃厚という雰囲気になっても生き残ったのが、笠松、岩手、そしてばんえい競馬だ。
 
 売上が下がり続けているばんえい競馬を、帯広市が単独で支え続けるのは難しいのではないかと思われた。
 平地の競馬なら、たとえいくつかの競馬場が廃止になっても、競馬そのものは続く。しかしばんえい競馬は世界でも北海道だけのもの。廃止となれば、ばんえい競馬そのものがなくなってしまう。
 厩舎関係者や十勝の人々、マスコミ関係者など、存続を訴える運動は全国に広がった。
 そこに救世主として手を上げたのが、オッズパークの親会社であるソフトバンクプレイヤーズ(現・SBプレイヤーズ株式会社)だった。
 主催は帯広市だが、主催業務の一部を受託することで支援するというもの。2006年12月、急転直下の出来事だった。日本の競馬で民間企業が競馬の主催業務に直接関わるというのは初めてのこと。
 そして『オッズパークばんえいマネジメント(OPBM)株式会社』が設立され、2007年4月、新生・ばんえい十勝がスタートすることとなった。
 こうした経緯があり、2007年度にシーズン最初の重賞として新設されたのが、『ばんえい十勝オッズパーク杯』だった。
 
 しかしながら、新生・ばんえい十勝の経営は厳しいものだった。
 ばんえい競馬は、2007年度の年間総売得額が129億円余り、1日平均では8616万円余り。年を追うごとにその売上はじわじわと下がり、2011年度には年間で103億円余り、1日平均で6728万円余りにまで落ち込んだ。
 オッズパークばんえいマネジメントは、2012年度限りでばんえい十勝の業務から撤退することとなった。
 
 売上は2011年度を底に徐々に回復したが、それは地方競馬全体の流れでもあった。
 2011年度、馬券の売上全体に占める電話・ネット投票の割合は、地方競馬全体で35.5%、ばんえい競馬では38.0%。
 それまでネット投票といえばパソコンがほとんど。しかし携帯電話が徐々にスマホにとって代わり、それを国民のほとんどが所有するに至り、誰でもがネット投票に手軽に参加できるようになった。
 2019年度、電話・ネット投票が売上全体に占める割合は、地方競馬全体で78.0%、ばんえい競馬ではじつに85.1%までになった。
 これによって地方競馬のファンが全国に広がり、地方競馬の売上はV字回復した。
 
 2011年度には前述のとおり1日平均で6728万円余りだったばんえい競馬の売上は、2019年度にはついに2億円を突破。年間総売得額でも、どん底だった2011年度の3倍以上、310億円余りになった。
 
 ばんえい競馬が帯広市単独開催となったあと、ばんえい競馬が一番厳しかった時代を支えたのがオッズパーク。その象徴として、シーズン最初に実施されている重賞が、『ばんえい十勝オッズパーク杯』ということになる。

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NAR『ウェブハロン』、『優駿』、週刊『競馬ブック』、『競馬総合チャンネル』などで地方競馬を中心に記事を執筆。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』『地方競馬中継』解説。ドバイ・香港・シンガポール・アメリカなどの競馬にも足を運ぶ。1964年生まれ。
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