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【コラム】三冠馬で振り返るホッカイドウ競馬

 7月22日、門別の王冠賞を制したラッキードリームが、ホッカイドウ競馬史上6頭目の三冠馬となった。
 
 近年、地方競馬では多くの競馬場(主催者)で3歳三冠の体系が整備されるようになってきたが、古く昭和の時代から"三冠"として認識されていたのは、南関東、北海道のほかには、アラブ系の時代の兵庫、そしてばんえい競馬くらいではなかったか。
 
 なかでもホッカイドウ競馬は、かつては札幌、旭川、帯広、岩見沢(古くは函館も)の各競馬場で行われたため、三冠の体系が年を追うごとに変化してきた。今回は、6頭の三冠馬と、その時々の三冠体系やホッカイドウ競馬の背景を振り返ってみたい。
 
 ホッカイドウ競馬の三冠では、北海優駿の歴史がもっとも古く、第1回は1973年に行われた。続いて北斗盃が1977年、王冠賞が1980年にそれぞれ第1回が行われた。とはいえ、当初からその3レースが「三冠」と言われていたかどうか、今となっては資料も少ないので定かではない。
 
 それでも三冠のうちもっとも後発だった王冠賞が第2回の1981年に初代三冠馬となったのがトヨクラダイオーだ。この年、一冠目の北斗盃は6月21日に旭川1600mで、二冠目の王冠賞は8月16日に帯広1800mで、そして三冠目の北海優駿は10月10日に札幌1800mで行われた。三冠いずれも鞍上は佐々木一夫騎手(のち調教師)、管理したのは成田春男調教師だった。
 
 2頭目の三冠馬誕生はそれから18年ものちのこと。1999年のモミジイレブンで、父は、中央でマイルチャンピオンシップ、阪神3歳Sなどを制したサツカーボーイ。門別1200mの北斗盃は5月5日の予定が取止めとなって11日に延期された。王冠賞は9月2日の旭川1600m、そして北海優駿は10月11日の札幌2400m。それまで調教専用施設として使用されていた門別のトレーニングセンターが、門別競馬場として開場して3年目のことだった。
 鞍上は三冠いずれも松本隆宏騎手(現調教師)、管理していたのは鈴木英二調教師。ちなみにこのコンビは、1983年に北海道のアラブ系三冠(北海盃、帝冠賞、アラブ優駿)もバンガードライデンで制している。
 
 3頭目はそのわずか2年後でミヤマエンデバー。北斗盃は5月24日の札幌1000m、王冠賞は8月15日の旭川1600m、そして北海優駿は10月18日の門別2000m。鞍上は堂山直樹騎手、管理するのは堂山芳則調教師で、親子のコンビによる三冠達成だった。
 
 ホッカイドウ競馬の"ダービー"にあたる北海優駿は、第1回からながらく9月か10月に行われてきた。地方競馬では2006年に『ダービーウイーク』(2017年からダービーシリーズ)が行われるようになり、各地の"ダービー"は5月下旬から6月にかけて実施されるようになったが、それ以前は主催者ごとに実施時期はさまざまだった。
 そもそもダービーウイークの最初の年に、ホッカイドウ競馬でダービーウイークに組み込まれたのは北海優駿ではなく、一冠目の北斗盃(札幌1700m)だった。4月下旬にシーズンが始まるホッカイドウ競馬で、それまで三冠目として秋に行われてきた北海優駿をいきなり6月にスライドすることはできなかったと思われる。それゆえ北斗盃を『札幌ダービー北斗盃』という名称にしたのは苦肉の策だった。ちなみに翌2007年には一冠目の北斗盃が5月3日に繰り上げられ、北海優駿は6月5日に実施され、この年から北海優駿は二冠目となった。
 
 4頭目の三冠馬は2010年でクラキンコ。今年まで6頭の三冠馬のうち唯一の牝馬。この年からホッカイドウ競馬は門別単独の通年ナイター開催となり、4月29日の北斗盃は1200m、6月1日の北海優駿は2000m、8月19日の王冠賞は2600m。1200mから2600mまで、もっとも距離に開きがある体系での三冠だった。一冠目の鞍上は小国博行騎手(現調教師)、二冠目と三冠目は宮崎光行騎手、管理したのは堂山芳則調教師。
 クラキンコの父は、2000年に王冠賞、北海優駿の二冠を制したクラキングオー。母は、1994年に北海優駿を制したクラシャトル。父・母ともに"ダービー馬"から生まれたダービー馬が三冠を制した。
 さらに奇跡的だったのは、クラキンコはわずか1頭しか生まれていないクラキングオーの初年度産駒で、クラキングオーの産駒で血統登録されたのは通算で3頭しかいないこと。クラキンコは、さまざまにドラマのある三冠達成だった。
 
 5頭目は2019年のリンゾウチャネル。5月30日の北斗盃が1600m、6月19日の北海優駿が2000m、8月1日の王冠賞が1800m。距離は1600?2000mと大きな差はないが、門別競馬場には2015年に内回りコースが完成し、内回りの1600mと、外回りの2000m、1800mという形態の異なるコースをこなさなければならないという難しさがあった。鞍上は五十嵐冬樹騎手、そして堂山芳則調教師は、ミヤマエンデバー、クラキンコに続く、3頭目の三冠達成という快挙となった。
 またホッカイドウ競馬では2016年から『3歳三冠賞』が創設され、三冠を制した馬には2000万円のボーナス(二冠馬にも250万円)が支給されるようになり、リンゾウチャネルは初の三冠ボーナス獲得となった。
 
 そして今年三冠馬となったのがラッキードリーム。距離体系はリンゾウチャネルの年と変わらず。主戦の石川倭騎手は、一冠目の北斗盃前日のレースで落馬負傷。5月13日の北斗盃は五十嵐冬樹騎手に急遽乗り替って勝利。6月17日の北海優駿、そして7月22日の王冠賞は、石川倭騎手に戻っての三冠達成となった。
 管理するのは林和弘調教師で、馬主はその父であり、ホッカイドウ競馬の元調教師だった林正夫さん。父子での三冠達成でもあった。
 またラッキードリームでは、第1回として昨年行われたJBC2歳優駿の勝ち馬が三冠馬となったことも印象的だった。
 
ラッキードリーム三冠.jpg
白い帽子が林正夫さん、その右が林和弘調教師、石川倭騎手

斎藤修の重賞ピックアップ
NAR『ウェブハロン』、『優駿』、週刊『競馬ブック』、『競馬総合チャンネル』などで地方競馬を中心に記事を執筆。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』『地方競馬中継』解説。ドバイ・香港・シンガポール・アメリカなどの競馬にも足を運ぶ。1964年生まれ。
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